布刀玉命(ふとだまのみこと/Futodama-no-Mikoto)は、天岩戸神話で占い(太占)を献じ、玉串を捧げ持ち、注連縄で岩戸を封じた、祭祀と占いを司る天津神です。神社で見かける玉串と注連縄のルーツを作った神であり、天孫降臨では五伴緒の一柱として随行し、朝廷の祭祀を統括した忌部氏の祖神とされます。
この記事でわかること
- 布刀玉命のご利益と、祭祀・占いの神としての役割
- 天岩戸神話での「太占・玉串・注連縄」の三つの働き
- 忌部氏との関係と、布刀玉命を祀る代表神社
布刀玉命の基本プロフィール
名前の意味・読み方
「布刀玉命」は「ふとだまのみこと」と読みます。「フト(太)」は「太い・立派な」のほか、天岩戸で献じた占い「太占(ふとまに)」に通じる語とされ、「タマ(玉)」は「玉(祭具の宝珠)」と「霊力」の両方の意味を持ちます。つまり「立派な祭具と霊力を持つ神」——祭祀の要を握る神であることが名前から分かります。
表記は出典ごとに変化し、古事記では「布刀玉命」、日本書紀では「太玉命」、古語拾遺では「天太玉命(アメノフトダマノミコト)」、新撰姓氏録では「天櫛玉命」と記されます。別称として「大麻比古命(オオアサヒコノミコト)」——麻を司る神を意味する名——「天神玉命」「玉櫛比古命」などが知られます。
性別・外見・象徴
男神です。天岩戸神話の描写では、天照大御神(アマテラス)の前で太占を献じ、大玉串を捧げ持ち、最後には尻久米縄(注連縄)で岩戸を封じる——「神と人を繋ぐ道具を手に立つ神官」としての姿が象徴とされます。シンボルは玉串・注連縄・勾玉・楮(こうぞ)と麻です。
神話上の系譜
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称(古事記) | 布刀玉命(フトダマノミコト) |
| 正式名称(日本書紀) | 太玉命(フトダマノミコト) |
| 読み方 | フトダマ/Futodama-no-Mikoto |
| 別名 | 天太玉命・天櫛玉命・大麻比古命・天神玉命など |
| 神格 | 祭祀の神・占いの神・祭具の神・麻と楮の神 |
| 性別 | 男神 |
| 出典 | 古事記・日本書紀・古語拾遺・新撰姓氏録 |
| 所属 | 天津神(天孫降臨では五伴緒の一柱) |
| 父神 | 高御産巣日神(タカミムスビ)(一説) |
| 子神 | 天宇受売命(アメノウズメ)(一説) |
| 後裔氏族 | 忌部氏(斎部氏) |
| 代表神社 | 安房神社(千葉)・大麻比古神社(徳島)・天太玉命神社(奈良) |
布刀玉命のご利益
※以下のご利益は、古来からの信仰上の伝承に基づくものです。
厄除け・災難除け
最大のご利益です。天岩戸から出た天照大御神が二度と隠れないよう、尻久米縄(注連縄)で岩戸を封じた神話に由来します。注連縄は神聖な領域を不浄から遮断するバリアとして機能する道具であり、それを作った布刀玉命には、悪霊のもたらす災厄を除く霊力があるとされています。
商売繁盛・金運
祭具(玉)を司り、産業と経済の神格も併せ持つことから、商売繁盛・金運向上のご利益があるとされています。神事に必要な楮・麻などの生産を司った神である点も、産業の守護と結びつく由縁です。
所願成就・仕事運
占いで神意を伺い、最善の道を示した神であることから、所願成就(願いごとの達成)・仕事運のご利益があるとされています。進路や事業の判断に迷う場面の祈願先とされてきました。
縁結び
神と人とを「玉串」という道具で結び付けた神であることから、人と人との縁を結ぶご利益にも結びつけられています。
学問・占術の向上
太占(ふとまに)を献じた占いの神であることから、占術向上のほか、祭祀・古典・伝統文化を学ぶ人々の学業成就の信仰もあります。
布刀玉命が登場する神話・エピソード

天岩戸:太占で神意を伺う
天照大御神(アマテラス)が天岩戸に隠れ、世界が闇に包まれた際、思金神(オモイカネ)が作戦を立案しました。布刀玉命の最初の役目は、その作戦の吉凶を占うことでした。天児屋根命とともに太占(ふとまに)——鹿の肩甲骨を焼き、その亀裂で神意を占う古式占術——を献じ、神々の作戦実行の許しを得たのです。祭祀と占いの神である布刀玉命だからこそ担えた、作戦の「承認プロセス」でした。
天岩戸:大玉串を捧げ持つ
続いて布刀玉命は、枝葉の茂った榊に、八尺の勾玉を連ねた玉飾りと大きな鏡、楮で織った白和幣(しらぬか)と麻で織った青和幣(あおぬか)を下げた「大玉串」を作り、岩戸の前に捧げ持ちました。天児屋根命が祝詞を奏上するなか、天宇受売命(アメノウズメ)の舞で神々が沸き、天手力男神(アメノタジカラオ)が岩戸を引き開く——その作戦の中心に、布刀玉命の玉串が据えられていたのです。今日、神社で祈祷を受ける際に玉串を捧げる慣習のルーツが、まさにこの場面です。
天岩戸:尻久米縄で岩戸を封じる
天照大御神が岩戸から出てきた瞬間、布刀玉命はすかさず尻久米縄(しりくめなわ)——注連縄の原型——で岩戸の入り口を封じました。「もう二度と岩の中に隠れない」という誓いの印であると同時に、「光輝く太陽神の居場所は、ここが聖域だ」と示す結界でもありました。これが神社の鳥居や社殿、御神木に張られる注連縄のルーツです。玉串と注連縄——現代の神社参拝に不可欠な二つの道具を生んだ神こそ、布刀玉命です。
忌部氏の祖神:朝廷の祭祀を統括した氏族
天岩戸の後、布刀玉命は天孫降臨に随行して地上に降り、邇邇芸命(ニニギ)に従って祭祀を司りました。日本書紀は、その後裔が忌部氏(いんべし)——朝廷の祭祀の執行と、儀式に使う祭具の製作を専門に担当した氏族——であると記します。奈良・橿原の「忌部町」、徳島の阿波忌部、千葉の安房——「忌部」の名を持つ土地の多くに布刀玉命の社が鎮座するのは、この氏族の繁栄の跡です。神主の原像ともいえる祭祀の職能そのものを神格化した神、それが布刀玉命です。
神話から読む性格とメッセージ
布刀玉命の物語は「縁の下で、場を整える人の価値」というテーマを持ちます。天岩戸神話の主役は知恵(思金神)、舞(天宇受売命)、力(天手力男神)——しかし作戦が神意に適うかを確かめ、舞台を整え、勝利の後には結界を張って成果を守ったのは布刀玉命です。
目立つ仕事ではなく、儀式と準備と締めくくりを完璧にする。現代でいえば、プロジェクトの企画を運び、現場を整え、終わった後に管理体制を引くまで面倒を見る人です。影の仕事に誇りを持つ人、儀礼・文化を守る仕事に生きる人にとって、布刀玉命は最も身近な守護神といえます。
布刀玉命を祀る神社一覧
総本社・代表神社
安房神社(あわじんじゃ) – 千葉県館山市
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 住所 | 千葉県館山市大神宮589 |
| 参拝時間 | 境内自由(詳細は公式サイト参照) |
| アクセス | JR「館山駅」よりバス利用(詳細は公式サイト参照) |
| 主なご利益 | 開運招福・諸願成就・産業守護 |
安房国一の宮です。「上の宮」に産業創始の神・天太玉命と后神・天比理刀咩命を、「下の宮」にはその孫で房総開拓の神・天富命を祀ります。布刀玉命信仰の代表神社として知られます。
大麻比古神社(おおあさひこじんじゃ) – 徳島県鳴門市
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 住所 | 徳島県鳴門市大麻町板東広塚13 |
| 参拝時間 | 境内自由(詳細は公式サイト参照) |
| アクセス | JR「池谷駅」より徒歩圏内(詳細は公式サイト参照) |
| 主なご利益 | 開運・厄除け・産業守護 |
阿波国一の宮。祭神の大麻比古命は布刀玉命の別名であり、阿波の忌部氏が深く関わった社として知られます。
天太玉命神社(あめたまたまじんじゃ)- 奈良県橿原市
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 住所 | 奈良県橿原市忌部町153 |
| 参拝時間 | 境内自由 |
| アクセス | 近鉄橿原線「八木西口駅」より徒歩圏内 |
| 主なご利益 | 祭祀・厄除け・所願成就 |
「忌部町」という地名に忌部氏の痕跡を残す地に鎮座する、社名どおり天太玉命を祀る神社です。
全国のその他の主な神社
| 神社名 | 所在地 | 主なご利益 | 公式サイト |
|---|---|---|---|
| 安房神社 | 栃木県小山市粟宮1615 | 開運・産業守護 | ― |
| 五社神社 | 静岡県浜松市中区利町302-5 | 開運・厄除け | ― |
| 洲崎大神 | 神奈川県横浜市神奈川区 | 開運・厄除け | ― |
| 天津神社 | 新潟県糸魚川市一の宮1-3-34 | 開運・安産 | ― |
| 大原神社 | 千葉県君津市平山823 | 開運・所願成就 | ― |
※忌部氏ゆかりの地(安房・阿波・紀伊など)に布刀玉命を祀る社が点在するのが、この神の信仰の分布上の特徴です。
布刀玉命と関係の深い神様
天岩戸神話で共演した神々
天照大御神(アマテラス)
天岩戸に隠れた太陽の女神。布刀玉命は太占で神意を伺い、玉串を掲げ、注連縄で岩戸を封じて、天照大御神の「帰るべき聖域」を整えた神です。
思金神(オモイカネ)
天岩戸作戦の立案者。布刀玉命の太占は、その作戦の善し悪しを神意で確かめる役割を担いました。立案(思金神)と承認・実行(布刀玉命)の名コンビです。
天児屋根命(アメノコヤネ)
祝詞を奏上した言霊の神。布刀玉命の太占・玉串と、天児屋根命の祝詞は、祭祀の二人三脚として古代から対で語られる存在です。後裔の忌部氏と中臣氏も、朝廷の祭祀を二分しました。
天宇受売命(アメノウズメ)
天岩戸で神々を笑わせた芸能の神。布刀玉命の娘神とする説があり、父の玉串の舞台で舞が披露されました。
天手力男神(アメノタジカラオ)
岩戸を引き開けた力の神。布刀玉命が結界を張るまでの「最後の一手」を担いました。
父神と随行の神々
高御産巣日神(タカミムスビ)
布刀玉命の父神とされる造化三神の一柱。生成の力を司る神であり、祭祀・生成の神格はこの父の力を受け継いだとも考えられています。
邇邇芸命(ニニギ)
天孫降臨の主神。布刀玉命は五伴緒の一柱としてこれに随行し、地上の祭祀を司りました。
よくある質問(FAQ)
Q1. 布刀玉命とはどんな神様ですか? 祭祀と占いを司る天津神です。天岩戸神話で太占(ふとまに)を献じ、玉串を捧げ、注連縄で岩戸を封じた神であり、天孫降臨では五伴緒の一柱として随行しました。忌部氏の祖神とされます。
Q2. 布刀玉命のご利益は何ですか? 厄除け・災難除け・商売繁盛・金運・所願成就・縁結びが主なご利益です。注連縄の結界の神話から、悪霊による災厄を除く霊力があるとされています。
Q3. 布刀玉命を祀る代表的な神社はどこですか? 安房国一の宮・安房神社(千葉県館山市)が代表格です。徳島県の大麻比古神社、奈良県橿原市の天太玉命神社など、忌部氏ゆかりの地の社が知られています。
Q4. 玉串と注連縄の由来は布刀玉命なのですか? 神話上はそうです。天岩戸で榊に勾玉・鏡・幣を下げた「大玉串」を作ったこと、岩戸を尻久米縄(注連縄)で封じたことが、それぞれのルーツとされます。
Q5. 忌部氏とはどんな氏族ですか? 朝廷の祭祀の執行と、儀式用の祭具の製作を専門に担当した氏族です。日本書紀は布刀玉命をその遠祖と記し、奈良・徳島(阿波)・千葉(安房)などに氏族の繁栄の跡が残ります。
Q6. 天児屋根命と布刀玉命の違いは何ですか? 同じく天岩戸・天孫降臨で祭祀を司る対の神です。天児屋根命は祝詞(言葉)を司り中臣氏(藤原氏)の祖神、布刀玉命は太占と祭具(物)を司り忌部氏の祖神とされます。
まとめ
布刀玉命(フトダマ)は、占いで神意を伺い、玉串で神と人を繋ぎ、注連縄で聖域を守った——神社の「祭祀のかたち」そのものを作り上げた神です。
天岩戸神話の主役ではないからこそ見える姿があります。作戦を整え、舞台を設え、すべてが終わった後に結界を張る。目立たない仕事を完璧に果たしたからこそ、太陽は二度と隠れなくなりました。
厄払い・開運・願いごと成就を願うとき、神社で玉串を捧げるとき、布刀玉命の御神徳を感じてみてください。安房神社・大麻比古神社など、忌部氏ゆかりの社への参拝がおすすめです。
参考文献・出典
- 古事記(太安万侶撰、712年)
- 日本書紀(720年)
- 古語拾遺・新撰姓氏録
- 國學院大學 古典文化学事業「布刀玉命」:https://kojiki.kokugakuin.ac.jp/shinmei/futotamanomikoto/
- 安房神社 公式サイト:http://www.awajinjya.org/
- 大麻比古神社 公式サイト:https://www.ooasahikojinja.jp/

